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憲章都市:Chartered City

  • 日本では、中央政府の法令によって自治体が創設されたが、別稿「ホーム・ルール州とディロン・ルール州」でも見たように、米国では、日本と同じように州法によって自治体が創設されるものもあれば、州政府の影響力を弱めた形で、もっと、住民主導、自治体主導で創設されるものもある。大都市ほど、後者の例が多いようであり、憲章都市Chartered City、Chartered Townshipなどと呼ばれている。

  • 憲章都市の考え方はヨーロッパに起源を持つ。米国に来たヨーロッパ移民達は、母国において、国王や君主の支配から脱却し、市民として自治都市を形成していった歴史を引き継ぎ、移民先の米国においても、ヨーロッパの自治都市のような自治体を作り上げてあったのではないか。その典型が憲章都市である。憲章都市とは、住民自身が設立する自治体の基本条例、憲法ともいうべきものを起草し、採択し、自らの自治体としてその誕生を宣言するものである。

  • この制度は、もともとは、自治体の自主性をめぐる、州政府と自治体との争いの中から生まれたものである。現在では、州法も整備され、特に中小規模の自治体は、州政府の一般的な法令によって設立されることが多く、その組織、権能もかなり画一的になっている(一般法general law都市)。一方、一定規模以上の都市は、この憲章都市としての設立が奨励されているようである。もちろん、この憲章は、連邦政府の憲法や州政府の憲法の範囲内でなければならないが、自らの組織、権限を、住民が自ら決めるため、画一的な日本の自治体とはかなり異なる組織であると理解すべであろう。

  • テキサス州のサンアントニオ市の北東方向50kmに、ガーデンリッジgarden-ridgeという町がある。この町は独立憲章都市のようであり、この町のHPに、「独立憲章」都市に関するFAQが掲載されている(https://www.ci.garden-ridge.tx.us/)。ここでは、「独立憲章」都市の性格が、「一般法」都市と対比されて記述されているので紹介する。

ガーデンリッジ町の位置図(図の右上)

自治体制度3.png

憲章都市の事例紹介(テキサス州ガーデンリッジ市のHP:Home Rule Charter – FAQより)

独立憲章:Home Rule Charterとは何か

  • Home Rule Charterとは、州政府からの最小限の干渉の下、自治を行うことのできる基礎自治体が有する特権である。独立憲章は、自治体のことは、最も住民に近いレベルで決定されるべきだという理念を前提としている。「自治体は民主主義的の基本である。」

「一般法general law」と「自治体憲法Home Rule」の違いとは

  • テキサス州の自治体は、2種類の類型の下で運営されている。「一般法」都市と「自治体憲法」都市である。

「一般法」都市-テキサス州法に基づいて特定の権限を与えられた自治体である。

  • 「一般法」都市においては、州法に基づいたもの、または、州政府の許認可を得たもののみを行うことができる。自治体がある行為を行う場合、州法において具体的な権限または許認可が規定されていなければならない。もしそのような規定がない場合は、一般法都市はいかなる行為もなすことができない。一般法都市は小規模であり、一般的にせいぜい5,000人までである。

「独立憲章」都市-人口5,000人以上の都市で、その住民が、自治体の組織構造、権限、義務、自治体の行政執行権などを規定した「自治体憲法」を採択しているものである。

  • 「独立憲章」都市の法的地位は、「一般法」都市の地位と逆である。州法が、「一般法」都市はこうやるべきだとしていても、「独立憲章」都市は、彼ら自身の憲法を見て、それをやるべきかどうかを決定することができる。「独立憲章」都市は、州の憲法や法令で禁止されておらず、かつ、自らの憲法がそれを許している限り、どのようなことも行うことができる。「独立憲章」都市は自治体としての全ての権限を有しており、合衆国憲法、テキサス州憲法、テキサス州法に反しない限りにおいて、住民の健康、安全、福祉に関するいかなる行政行為も行うことができる。

「独立憲章」とは何か

  • 「独立憲章」都市は、憲章を起草し、住民投票により採択しなければならない。独立憲章とは、その自治体の希望に基づいて、その権限、義務、責任を規定するものである。また、自治体の組織形態や組織に関する規定も定義する必要がある。住民は、選挙、住民直接投票(レファレンダム)、住民発案(イニシアティブ)、住民による解職請求(リコール)など自治体の行動を監視するメカニズム、及び、「自治体憲法」改正の手続きを規定しなければならない。基本的には、「自治体憲法」はその自治体のあり方を、その自治体の希望に基づいて任意に決めるのに対し、「一般法」都市においては、テキサス州法が一方的に決めるものである。

「独立憲章」はどのように採択されるか

  • テキサス州地方自治法第9章は、独立憲章の採択手続きを規定している。それは、①憲章起草委員会の選挙、②憲章起草委員会による憲章案の提案と議会への諮問、③議会における投票日の設定(次回の統一地方選挙日)、④登録された住民に、投票日の30日前までに憲章案のコピーを送付、⑤統一地方選挙日において、憲章採択の可否を住民投票、過半数で採択。

「独立憲章」都市と「一般法」都市の違いは何か

  • 両者にはいくつかの相違点がある。自治体の法人化移行を考える場合に、注意すべき相違点は次の通りである。

  • 「独立憲章」都市の最終イメージは、まさに、自ら決するという「自治体」である。憲章は住民によって起草され、採択され、そして、自治体の組織を定義する。自治体住民は、自治体の標準的考え方、価値観、優先すべき行政課題を準備する。多くの都市が直面している多くの行政課題を抱える「一般法」都市と異なり、「独立憲章」都市においては、自治体がどのように運営されるべきかを住民自ら定義することができる。

  • 「独立憲章」都市は、自治体の行政課題に対処するツールをいろいろ持っている。独立憲章は、自治体の形態についての住民の希望に対する回答であり、自治体の組織構造を定義し、自治体の資金借入に対する規制、自治体の権限行使に対する制限を課すものである。

  • 住民直接投票(レファレンダム)、住民発案(イニシアティブ)、住民による解職請求(リコール)は、自治体が通常でない状況に陥った時に直接的救済方法として、自治体住民に留保された直接民主主義の3つの手法である。この3つの権利は、「自治体憲法」都市だけに認められるもので、その他の形態の自治体には認められないものである。

  • 住民発案は、特定の行政課題について、議会がそのことに関する行動を行わない場合に、行動することを議会に対して求めるものである。住民発案が成立すれば、議会は、その発案を採択するか、住民投票にかけることを提案しなければならない。

  • 住民発案は、議会に対して、既にとられた行動、または、提案された行動を取り消すよう求めるものである。議会は、その発案の対象を取り消すか、住民投票にかけることを提案しなければならない。

  • 解職請求は、議会に対して、議員、市長(片方でも両方でも)を罷免する住民投票を求めるものである。対象となった議員または市長は辞任するか、再選挙で戦うことができる。

  • 自治体が成長するにしたがって、複雑化する行政課題に取り組む必要が生じ、それを解決するためには柔軟性が要求されることとなる。独立憲章は、行政課題の柔軟な解決に寄与する。もっともこのことと、テキサス州の人口5,000人以上の都市の圧倒的多数が「一般法」都市ではなく、「独立憲章」都市を選択していることと相関がある訳ではない。

  • 独立憲章が採択されると、住民は、今度は、その修正手続きを通じて、独立憲章そのものをコントロールする権利を留保する。このことは、住民は常に、その自治体の形態、権限、執行権を自己決定する地位にあるということを保証するものである。

独立憲章に記載される典型的ないくつかの事項は何か

  •  独立憲章は、その自治体と住民のいろいろな権利、責任、特権を定めるものである(但し、それが州法と連邦法を超えることはできない)。そのいくつかを下記に挙げる。

①議員の定数、任期、選挙の方法

②市長、議員、その他特定の職員の責務

③自治体の形態

④直接民主主義の3つの手法に対する住民の権利

⑤当該自治体による、他自治体と統合する権利、課税権、住民の安全確保措置の権利

⑥各種行政手続きと自治体としての倫理的責務

ホーム・ルール州とディロン・ルール州

  • 総務省のHPによれば、現在の日本の自治体制度は、版籍奉還直後の1878年、郡区町村編制法・府県会規則・地方税規則の3つの新法が制定され、府県の下に郡区町村が設置されたのが起源であるようである。ここで注目すべきは、府県郡区町村など各種の自治体が、中央政府の法令によって、統一的、画一的に、設立されたらしいということである。

  • 米国ではどうだろうか。現代米国の歴史は、17世紀初め、いわゆるピルグリム・ファーザーズが米国に移民してきたことに始まるが、その後、イギリスから独立して中央政府が樹立されたのが1776年である。それから90年後に南北戦争が起き、連邦政府も一時分裂することになったが、戦争後、南部11州が連邦に復帰した1870年当りを、現行の自治体の歴史の始まりとみることとする。

  • ところで、米国では、州政府と自治体の力関係に関して、2つの類型があるという。ホーム・ルール州Home Rule Statesとディロン・ルール州Dillon's Rule Statesというものであるが、これは、中央政府たる州政府と自治体との関係について、前者の州においては、州法において明示的に禁止されていない限り、広く、自治体の権限が認められているのに対し、後者の州においては、州法において明示的に許容されているもののみが、自治体の権限として認められるということのようである。

  • 州政府と自治体との間にこのような2つの対照的な関係が生まれたのは、南北戦争前後からであるという。この時代には、州議会が、地方自治体の組織や事務処理の細部に至るまで規定するほか、特別行政機関を設置し、州の任命する官吏が地方的事務を行い、あるいは地方自治体自体を廃止するなど、州による地方政府の行政活動への過剰な介入が行われていた。このような州政府優位の考え方は、後に、アイオワ州のジョン・ディロン判事が示したディロン・ルールという判例として確立する。

  • この判例では、地方政府は、第一に、明示的に州法の規定に列挙されている事項、第二に、列挙されている事項に必然的あるいは明瞭に含意されているか、または、列挙されている権限に付帯する事項、第三に、地方政府が明示した目的の達成にとって本質的かつ不可欠に重要な事項のみを行使できるとされた。自治体の権限の存在に関して、客観的、合理的、実質的な疑義がある場合には、裁判所により自治体に不利に判断され、自治体権限の制約に向かった。

  • 一方、19世紀末から20世紀はじめにかけて、州による自治体への干渉を制限する動きも生まれた。新たに都市の住民が州議会に対する抵抗手段を必要とするようになり、自治権を州政府に向かって訴えるに至った。これが、州議会の支配に制限を加えるために州憲法の改定を求めたホーム・ルール運動である。やがてその運動が制度上も具体化され、1875年にミズーリ州憲法において、人口10万人以上の都市が、州憲法および州法に違反しないことを条件に、自ら憲章を制定することを認めるに至った。以降、カリフォルニア州、ワシントン州、ミネソタ州などと続き、現在ではおよそ40州でホーム・ルール憲章の制定が行われている。

ホーム・ルール州とディロン・ルール州

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