20251019更新
20250409公開開始
ヒューストン (230万人)
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ヒューストン市は、テキサス州の最大かつ北米有数の世界都市である。ハリス・カウンティを中心に9カウンティにまたがるヒューストン都市圏の人口は710万人にのぼる。市域面積は1,500km2で、オクラホマシティに次ぐ全米第2の広さである。
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ヒューストンという市名は、テキサス独立戦争中の1836年、当時のテキサス共和国大統領で、テキサス独立戦争の指揮を執ったサミュエル・ヒューストン将軍から名を取って付けられた。
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1837年、市制が施行され、19世紀後半には海港や鉄道交通の中心として、また綿花の集散地として栄えた。やがて1901年に油田が見つかると、市は石油精製・石油化学産業の中心地として成長を遂げた。20世紀中盤に入ると、ヒューストンには世界最大の医療研究機関の集積地テキサス医療センターやアメリカ航空宇宙局NASAのジョンソン宇宙センターが設置され、先端医療の研究や航空宇宙産業の発展が進んだ。
 
テキサス州の位置図

テキサス州におけるハリス郡の位置

ハリス・カウンティにおけるヒューストンの市域
ヒューストン都市圏の4つの広域水道
【ハリス・カウンティ西部広域水道WHCRWA:West Harris County Regional Water Authority】
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WHCRWAは、2001年5月、州法によって創設された。ヒューストン市とKaty市が参加する組織で、表流水の確保、地下水揚水の削減、節水、地下水保全、地盤沈下防止などを目的としている。4年任期の輪番制の理事によってWHCRWAは運営されている。
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WHCRWAは、2005年9月、ヒューストン市の表流水を受水し、サービス区域に給水している。
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WHCRWAは、既に、地下水削減計画GRP:Groundwater Reduction Planを策定済であり、HGSD当局の許認可も得ている。HGSDによる削減目標は、2010年までに30%、2025年までに60%、2035年までに80%で、それに相当する分は表流水転換することになる。目標が達成できない場合、3.8L当たり12.12ドルの違反料金が科される。
 
【フォート・ベント・カウンティ北部広域水道NFBWA:North Fort Bend Water Authority】
- NFBWAは、FBSDの地盤沈下防止計画GRP:Groundwater Reduction Planの一環として、テキサス州法によって2005年に設立された。NFBWAはGRP保全計画の傘の下にあり、地下水に変えて、安価な代替水源を確保することを目的としている。
 
【ハリス・カウンティ北部広域水道NHCRWA:North Harris County Regional Water Authority】
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1999年、HGSDは、表流水転換の規制をカウンティ北側に拡大した。同年、テキサス州議会はNHCRWAの設立する法案を可決した。
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当時この地域には、160の水道事業者、320の井戸、2つの市、25万人の住民がいた。この160の水道事業者は、いくつかの例外を除き、自力で、水源を表流水に転換することは不可能だった。2000年1月、住民投票により圧倒的多数で、NHCRWAの設立が承認された。
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NHCRWAの基本的な使命は、長期にわたって十分な表流水水源を確保し、HGSDの規制をクリアすることであった。この使命を実現するためNHCRWAは、ヒューストン水道から水を購入することが最も現実的だと考えたが、料金が高すぎて断念することとなった。周辺の河川からの取水、ヒューストン水道以外からの受水、脱塩などいろいろ考えたが、どれも実現に至らなかった。最終的に、ヒューストン水道の北東浄水場NEWPPの拡張で話がまとまった。
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この事業は総事業費3,000億円で、120万m3/日の能力増強を行うものである。浄水場の運転はヒューストン水道が行うが、費用負担は、ヒューストン市、WHCRWA、NHCRWA、NFBWAで分担する。WHCRWAは、この事業の25.76%を負担し、31万m3/日を得る。
 
【ハリス・カウンティ中部広域水道CHCRWA:Central Harris County Regional Water Authority】
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2003年、中央ハリス・カウンティ水道事業者コンソーシアムCentral Harris County Water Users Consortiumが設立された。この組織は、ヒューストン市北部における地下水保全団体と下水道事業者が設立したものである。
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このコンソーシアムの基本的使命は、HGSD地盤沈下規制をクリアすることである。当初、10の上下水道事業者、12の水源井戸、合計600万m3/年の供給能力で発足したが、今日では、11の上下水道事業者で、合計670万m3/年の供給能力に拡大している。
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2005年、テキサス州法に基づき、上記コンソーシアムの資産を引き継ぐ形で、CHCRWAが設立された。
 
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上記の他、ハリス・カウンティ内のルース流域導水事業LBITPに参加している水道事業者として、下記がある。
 
【沿岸地域広域水道CWA:Coastal Water Authority 】
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CWAは水資源保全と下水処理を目的として、州法に基づき1967年に設立されたもので、州知事とヒューストン市長に任命された理事で運営されている。
 
ヒューストン都市圏の用水供給事業者

ヒューストン都市圏の地盤沈下問題
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ヒューストン都市圏は、全米でも急速に成長している地域である。2000年から2030年において、人口増加率で全米5位、650万人から920万人に増加すると予測されている。この都市圏では、地下水の過剰汲み上げにより地盤沈下が起きている。ハリス・カウンティ西部では、1906年から2000年までの約100年間に、2mの地盤沈下が起きたといわれている。
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HarrisカウンティとGalvestonカウンティでは、HGSD地盤沈下規制当局HGSD:Harris-Galveston Subsidence Districtによって、Fort Bendカウンティでは、FBSD地盤沈下規制当局FBSD:Fort Bend Subsidence Districtによって、地域内における地下水揚水が規制されている。HGSDは1975年に、FBSDは1989年に、地盤沈下規制のために、テキサス州法により設立された特別規制組織である。
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ヒューストン都市圏の全ての水道は、2025年以降の水需要に対応するため、かつ、HGSDとFBSDの規制をクリアするため、表流水転換を迫られている。地盤沈下規制当局の規制の内容は、2035年目標で、原則、地下水禁止、表流水転換の区域と、表流水への依存度を80%まで上げる区域を指定するものである。
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そのための2つの大規模プロジェクトが、SWSP:Surface Water Supply ProjectとLBITP:Luce Bayou Interbasin Transfer Projectである。また、それに伴って、ヒューストン水道の北東部浄水場の拡張事業も共同事業として実施された。
 
ヒューストン都市圏の地盤沈下(1906-2000)

ヒューストン都市圏の水道:表流水転換事業
【表流水転換事業The Surface Water Supply Project】
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SWSP事業は、ヒューストン水道のヒューストン湖水源からの表流水を、ヒューストン水道局の北東浄水場Northeast Water Purification Plantで浄水し、90kmの管路を経て、WHCRWA広域水道とNFBWA広域水道のサービス区域に供給するものである。WHCRWAとNFBWAは、ヒューストン市の協力を得て、共同でSWSP事業に取り組んでおり、2030年代の竣工を目指して、ヒューストン市の北東部浄水場NEWPPの拡張事業を実施中である。
 
【ルース流域導水事業LBITP:Luce Bayou Interbasin Transfer Project】
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LBITPプロジェクトは、Trinity川の水をHouston湖とヒューストン水道の北東部浄水場NEWPPまで導水するものである。この事業に伴い、NEWPPの大規模拡張が行われている。LBITP事業に参加しているのは、ヒューストン市、NHCRWA、WHCRWA、CHCRWA、NFBWA、沿岸地域水道事業団CWA:Coastal Water Authorityである。この事業は2021年に完成し、表流水転換の重要な役割を果たしている
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LBITPプロジェクトは、Trinity川の水をHouston湖とヒューストン水道の最寄りの浄水場まで導水するものである。この事業に伴い、ヒューストン水道の北東部浄水場NEWPPの大規模拡張が行われている。LBITP事業に参加しているのは、ヒューストン市、NHCRWA、WHCRWA、CHCRWA、NFBWA、沿岸地域水道事業団CWA:Coastal Water Authorityである。この事業は2021年に完成し、表流水転換の重要な役割を果たしている。
 
【ヒューストン市北東部浄水場拡張事業Northeast Water Purification Plant Expansion Project】
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カウンティ内の4つの広域水道の表流水への水源転換のために、ヒューストン市の浄水場の東隣(ヒューストン市保有地)に、新しい浄水施設が増設される。現有能力30m3/日に、120万m3/日が追加され、浄水能力は合計150万m3/日となり、市保有地100haのうち60haを占めることになる。
 
表流水転換事業The Surface Water Supply Project

ポンプ場(Central Pimp Station)

ルース流域導水事業LBITP:Luce Bayou Interbasin Transfer Project

ヒューストン水道のNortheast浄水場(拡張完了後)

ヒューストン水道:民営化手法の導入
【Southeast浄水場拡張事業における民営化手法の導入】
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この浄水場は最大75万m3/日を、市の南西部と周辺7自治体の140万人に給水している。これは、ヒューストン市全体の190万m3/日のうちの4割を占めている。水源はTrinity川で、20kmの導水管を通じて導水されている
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この浄水場では拡張工事は実施されたが、DB(設計建設一括施工)という民営化手法が採用され、フェーズ1は2018年に着工、2023年に竣工した。設計はDCM社(Camp Dresser & Mckee Smith)が担当したという。建設工事の他、施設の試運転、立上げ運転までも含んでいる。フェーズ2は2025年に完了予定である。
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フェーズ1の完了後、本格運転も民間委託することで、いわゆるDBO的な手法が計画されていたが、2024年1月、ヒューストン市が浄水場運転の民営化を断念すると表明したようである。
 
ヒューストン水道のSoutheast浄水場


ヒューストン市水道
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ヒューストン市の水道はヒューストン市建設部Houston Public Worksが運営している。水源は、表流水86%(ヒューストン湖、Conroe湖、Livingston湖)、そして地下水14%である。
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ヒューストン水道は、5.5憶m3/年の上水と3.4憶m3/年の下水処理サービスを提供していている。道路関係の業務も担当しているため、水道管路10,000kmの他、26,000kmの道路車線、60,000ヶ所のマンホール、10万か所の雨水取り込みマンホール、110万ヶ所の街路名称と道路標識、17,000ヶ所のフリーウェイと橋脚の照明、5万ヶ所の消火栓、2,450ヶ所の交通信号の管理も行っている。
 - ヒューストン水道の水源はTrinity川、San Jacinto川、 Houston湖の3つである。
 
ヒューストン水道の浄水場の位置図
上から、Northeast浄水場、East浄水場、Southeast浄水場

Triton川流域:ヒューストン水道の水源
上流はダラス市から、下流はヒューストン市まで、メキシコ湾に注ぐ。

Livingston湖
Conroe湖
ヒューストン湖
ハリス・カウンティ内の下水道とヒューストン市下水道
【ハリス・カウンティ下水処理事業公社Harris County Flood Control District】
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ハリス・カウンティ浸水処理事業公社Harris County Flood Control Districtは、州法によって1937年に作られた特別自治体で、ハリス・カウンティ評議員会の監督下にある。1929年と1935年の大規模洪水を機に設立された。この公社の法的所管区域はハリス・カウンティの区域内の、ヒューストン市を含む470万人を対象としている。法的境界とは別に、カウンティの4,600km2内の23の排水区域も地形的な境界として、それぞれ、独立的に管理している。
 
【ヒューストン市内の下水道】
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ヒューストン市内の下水道施設は、ヒューストン市及びその周辺地域に住む200万人から排出される下水を集め、運搬し、処理している。この施設は、1万kmの管渠、42万件の接続、400のポンプ施設、41の下水処理施設(大規模施設5と小規模施設36)、3つの汚泥処理施設で構成されている。平均処理量は100万m3/日であるが、州政府から認可を受けている能力は合計210万m3/日で、800m3/日の小規模なものから、80万m3/日の69番街下水処理場69th Street Wastewater plantのような大規模なものまである。
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建物を建てる場合、市は、自らの下水道施設の能力を評価し、建築前の状態を変更しなければならない場合、その影響分を手数料として徴収する。
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市が進める排水処理施設改良プログラムWUTFIPは、テキサス州環境委員会と連邦政府環境保護庁USEPAの規制に対応しようとするものである。
 
ハリス・カウンティ内の排水の一般的流下方向

ハリス・カウンティ内の排水区域図
