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米国の法令制度と日本の法令制度の違い(1)
<改正の手法>

【法令改正の手法】

 

 日本の法令改正では、旧法令は、原則、新法令にとって代わられ、旧法令は消滅していきます。改正法では、旧法のどの条文をどう修正するか、送り仮名を変えるとか、番号を繰り下げたり、繰り上げたりというようなことを詳細に記述した法案が作成されます。そのような改正法案が議決されると、変更箇所をすべて修正した変更法令が法令集に掲載されます。

 

 一方、米国の法改正では、事情がかなり異なります。米国では法令の一部改正を意図したものであっても、旧法のどの条文をどう修正するかということを記述した法案が作成されることは少なく、新しい条文はこうであるというものが作成されます。これまでの法令がどうあれ、改正法発案者が、「私の考えはこうである」式の法案が審議の対象となり、可決、成立することになります。

 

 旧法のどこをどう修正するというものではありませんので、結局、旧法も、新法も、矛盾しない限りで、存在し続けるということになります。もちろん例外的に、ある法令を明示的に廃止する法令というものもあるでしょう。そのような場合には問題は起きませんが、修正法方式では、特に、旧の条文が細かい内容になっている場合は、新しい修正法によって、どこまで修正されたのか、されていないのか、はっきりしないこともあり得ます。

 

 このような法令事情からどんなことが起きるかというと、これまでに作られた法律は、後に、明示的に修正されない限り、全て、生きていると考えざるを得ません。そうなると、自分の法律的な正当性を主張するために、極端な話、13世紀のマグナカルタにまで遡るということも可能だということになります。
 

 米国の法改正の典型的な事例として米国憲法をみてみましょう。現行の米国憲法は、独立当時の当初の憲法に対して、27の修正条項が付加されています。米国憲法の改正は、 元の条文を、直接変更・改廃するのではなく、従来の規定文章は残したまま、修正内容を修正条項として、それまでの憲法典の末尾に付け足していく方法がとられています。修正条項は、順次「第1修正 (Amendment I)」「第2修正 (Amendment II)」と番号が付されています。
 

 米国憲法のように、末尾に順次追加されていく方式は、まだ、参照しやすいですが、全ての法令が、あいまいに併存していると、どの法令のどの部分が、事実上、死んでおり、どの部分が生きているかが、ほとんどわからないということになります。そこで、法令集の登場ということになります。これについては、また、稿を改めて説明します。

米国の法令制度と日本の法令制度の違い(2)
<法令集の作成手法>

【法令集の作成手法】

 

 日本の法令集は、基本的に、誰が作っても同じものになります。何故なら、旧法のどこをどう修正するかということを詳細に記述した改正法が審議の対象となっており、そのため、改正後の新法令は機械的に生成されることになるからです。誰がその作業をしても、同じ新法令ができあがる訳です。

 

 これに対して米国では、審議の対象となっているのが、「私はこう考える」式の法案ですので、体系立った、秩序だった法案になっていないこともあり得ます。例えば、この条文は、本来の分野とは別の分野に掲載した方が理解しやすいようなこともあります。このような事情もあり、米国の法令集は、審議の対象となって成立した法令が、公式の法令集「United States Statutes at Large」として連邦議会から発行されています。

 

 しかしそれとは別に、内容重視で、いくつかの分野に体系的に整理された法令集「United States Code」があります。成立した各法令を、その法令集に追加、削除する形で、読みやすく編集したもので、章立てや条文の番号も、新たに附番されることになります。

 

 アメリカ合衆国-連邦法の調べ方(2023年8月7日 更新 国立国会図書館作成)より

法律が制定されると、法律ごとに小冊子「Slip Law」(スリップ・ロー)が刊行され、それを制定順にまとめた「United States Statutes at Large」(制定順法律集。以下、「Statutes at Large」と記載)が刊行されます。その後、議会制定法は条文単位に分解され、「United States Code」(合衆国法典)の中の1条文として再構築されます。

 

「U.S.C.」は、現行の「Public Law」を各条文単位に分解し、54の「Title」(編)の下、体系立てて主題ごとに分類し、ひとつの法典として再構築したものです。「U.S.C.」の編纂については、The Office of the Law Revision Counsel of the U.S. House of Representatives(下院法律改定委員会 略称:OLRC)が責任を負っています。

 

 後者の法令集は、前者に比べれば、まだわかりやすいですが、それでも、古い法律が、曖昧に併存しているということになると、そういう、生きている古い法令も含めた、さらにわかりやすい総合的な法令集のニーズが出てきます。そこで、民間出版社刊行の、注釈付きの法令集が複数存在しています。West Publishing社の「United States Code Annotated」と、LexisNexis社の「United States Code Service」が有名です。

米国の法令制度と日本の法令制度の違い(3)
<SDWAの事例>

【安全飲料水法SDWA:Safe Drinking Water Actの事例】

 

​ アメリカにおける日本の水道法的な存在である安全飲料水法SDWA:Safe Drinking Water Actは、USC法令集の次の場所に掲載されています。

 

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USC法令集

タイトル分野42:公衆衛生分野/第6章:公衆衛生/第14節:公共水道施設の安全

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 法律の専門家でない者には大して重要なことではありませんが、米国議会で審議されていた段階(bill)では、多分、第1条から始まっていたと想像するのですが、大統領の署名を経て法律(Act)になって、法令集に掲載される際には上記のようになるということでしょうか。日本人である筆者にはなかなか理解し難いことです。

 

 第14節というのは、第1400条から始まるということを意味するようです。但し、最後まで連番ではなく、ある程度のまとまり毎に1桁目の番号を切り上げて、10とか20とかになったりするようで、SDWAの全体の附番は次のようになっています。

 

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SHORT TITLE:Sec. 1400

Part A—Definitions:Sec. 1401

Part B—Public Water Systems:Sec. 1411 - 1420

Part C—Protection of Underground Sources of Drinking Water:Sec. 1421 – 1429

Part D—Emergency Powers:Sec. 1431 – 1435

Part E—General Provisions:Sec. 1441 – 1459

Part F—Additional Requirements To Regulate the Safety of Drinking Water:Sec. 1461 – 1465

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 参考までにSDWAの冒頭部分を要約して紹介します。

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Sec. 1400. この部分のタイトルは、安全飲料水法SDWA:Safe Drinking Water Actとして参照される。

 

Sec. 1401. SDWA法においては、下記のように用語を定義する。

(1)第1種水質基準:primary drinking water regulationは、

 (a) 公共水道に適用される。

 (b) 汚染物質を特定する。

 (c) 汚染物質毎に、現実的であればMCL(最大許容レベル)を設定する、現実的でな

     ければ、1412条の規定を満足する十分な低いレベルを設定する。

 (d) MCL設定の根拠、手続き、分析法を含まなければならない。

 

(2)第2種水質基準:secondary drinking water regulationは、味や外観に関して定めるが、この基準は地形その他の環境条件に応じて変わるものである。

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