20260901更新
20250409公開開始
米国の法制度-英米法の世界
筆者は、米国の法制度について勉強する中で、自分が役人生活の中での経験からは、とても理解できないというようなことに頻繁に遭遇しました。それを何とか理解しようとした中で到達した1つの結論が、日本の法体系は大陸法の体系であるのに対し、米国の法体系は英米法の体系であるということでした。筆者は法律の素人ですので、法律の専門家から見れば間違っているところも多々あると思いますが、1人の上下水道の専門家の実務的な経験に基づく理解であるという前提で、読んでいただければ幸いです。
法律の成立:
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米国では、「大統領が署名して成立した」というような表現が頻繁に出てきます。日本では国会が衆参両院で可決すれば、実質的に、法律として成立します。厳密には、その後、天皇による「公布」という国事行為が行われて、正式に成立するということになるのでしょうか。筆者は、大統領の「署名」というのは、天皇の「公布」みたいなもので、形式的な行為と思い込んでいました。
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しかし、そうではありません。議会が議決した法案は、まだ、道半ばであり、大統領は、その成立を拒否することができます(拒否権の行使)。大統領が拒否権を行使した場合は、議会側は、2/3の多数による再議決で、拒否権を覆すことで、法律が成立するという仕組みになっています。大統領の「署名」はこのように法律成立の要件であり、決して形式的な行為ではありません。
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日本では、国会で法律が可決されたといえば、間違いなく法律が成立したわけですが、米国では、ある法案が議会で可決されたという記事と、その法案に大統領が署名したという記事には、大きな違いがあります。
法律の改正:
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日本の法律を改正する場合、全部改正という方法と、一部改正という方法があります。前者の場合は、元の法律を廃止して全面的に新しい法律を作るのですが、後者では、元の法律の条文に対して、「〇条の△△のここをこう変える」というような条文の法律を作ります。
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米国の場合、元の法律に対して「その修正amendment」という形で法案を作りますが、元の法律はそのまま放置する場合が多いようです。放置せず、明示的に、「ここはこう修正する」という場合もあるようですが、新しい法律が優先だという考え方で、実質的に、追加、削除、改正が行われている感じがします。
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実際、アメリカの現行憲法をみても、1787年に成立した当初の憲法に対して、何回かの修正がおこなわれていますが、その修正条項は、元の条文を直接変更・改廃するのではなく、従来の条文は残したまま、修正内容を修正条項として、それまでの憲法典の末尾に付け足していく方法がとられています。憲法修正条項は27条あり、修正条項は、順次「第1修正 (Amendment I)」「第2修正 (Amendment II)」と番号が付されています。
米国の法令の整理
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日本の法体系は大陸法体系であるといわれます。大陸法では全ての法令が体系的、階層的になっていて、極めてわかりやすい構造となっています。一方英米法は、体系的になっておらず、全ての法令は、基本的に、横並びという位置づけです。このことは、これまで作られた法律は、全て、まだ有効であるということを意味します。せいぜい、同じ事柄に関して異なる規定をしている2つの法令の場合、成立年次の新しい法令が優先するという構造はありますが、新しい法令がなければ、100年前の法律でも200年前の法律でも、今日でも、それは有効な法律であるということです。
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英米法でもう1つ、日本人にわかりにくいのは、英米法では、有効か無効かという判断が、法律全体ではなく条文毎に行われるということです。言い方をかえれば、1つ1つの条文が独立して存在していることになり、このことから、法令集に掲載する場合、法令集の整理方針、編集方針に沿って、いわば、勝手に並べ替えられ、成立時の条文番号とは異なる、新しい番号が附番された法令集が出来上がることになります。
米国の法令集
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こういうことになると、米国の法令集の編集はかなり難しい存在になります。新しい法令が制定されていて、実質的に、無効になっている法令はどれで、新しい法令が制定されていなくて、まだ有効な法令はどれかという判断や、法令集の目次というか、編集方針に沿って並べ替えたりすることも必要です。日本の「現行法令集」は、誰が作っても厳密に同じものができますが、米国の「法令集」では、似て非なる複数の「法令集」が存在し得ます。
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現行法を掲載する資料として、最も、使われているものが、USC:United States Code(連邦印刷局USGPO)で、1926年以降を所蔵する公式の現行総合法律集です。6年ごとに全面的に改版され、改版までは、累積版のSupplment(年刊)が刊行されます。
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次に有名なものが、West Pub 社のUSCA:United States Code Annotated(West Pub. Co.)で、1927年以降を所蔵する、民間版注釈付き現行総合法律集です。各本体は、「Pocket Part」(毎年累積した内容で刊行されるパンフレット状の付録、本体の末尾に繰り込む)によって、内容がアップデートされます。本体の改版は、編ごとに随時行われます。
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この他にも、民間版の現行総合法律集としてLexisNexis社のUSCS:United States Code Serviceがあります。
*国立国会図書館の所蔵資料の検索システム:「国立国会図書館サーチ」の記事を参照しました。
米国の法令改正の手法
【法令改正の手法】
日本の法令改正では、旧法令は、原則、新法令にとって代わられ、旧法令は消滅していきます。改正法では、旧法のどの条文をどう修正するか、送り仮名を変えるとか、番号を繰り下げたり、繰り上げたりというようなことを詳細に記述した法案が作成されます。そのような改正法案が議決されると、変更箇所をすべて修正した変更法令が法令集に掲載されます。
一方、米国の法改正では、事情がかなり異なります。米国では法令の一部改正を意図したものであっても、旧法のどの条文をどう修正するかということを記述した法案が作成されることは少なく、新しい条文はこうであるというものが作成されます。これまでの法令がどうあれ、改正法発案者が、「私の考えはこうである」式の法案が審議の対象となり、可決、成立することになります。
旧法のどこをどう修正するというものではありませんので、結局、旧法も、新法も、矛盾しない限りで、存在し続けるということになります。もちろん例外的に、ある法令を明示的に廃止する法令というものもあるでしょう。そのような場合には問題は起きませんが、修正法方式では、特に、旧の条文が細かい内容になっている場合は、新しい修正法によって、どこまで修正されたのか、されていないのか、はっきりしないこともあり得ます。
このような法令事情からどんなことが起きるかというと、これまでに作られた法律は、後に、明示的に修正されない限り、全て、生きていると考えざるを得ません。そうなると、自分の法律的な正当性を主張するために、極端な話、13世紀のマグナカルタにまで遡るということも可能だということになります。
米国の法改正の典型的な事例として米国憲法をみてみましょう。現行の米国憲法は、独立当時の当初の憲法に対して、27の修正条項が付加されています。米国憲法の改正は、 元の条文を、直接変更・改廃するのではなく、従来の規定文章は残したまま、修正内容を修正条項として、それまでの憲法典の末尾に付け足していく方法がとられています。修正条項は、順次「第1修正 (Amendment I)」「第2修正 (Amendment II)」と番号が付されています。
米国憲法のように、末尾に順次追加されていく方式は、まだ、参照しやすいですが、全ての法令が、あいまいに併存していると、どの法令のどの部分が、事実上、死んでおり、どの部分が生きているかが、ほとんどわからないということになります。そこで、法令集の登場ということになります。これについては、また、稿を改めて説明します。
BillとAct
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米国では、議会が可決した「制定法」そのものはBillと呼ばれている。このBillの内容は、Sec. 1, Sec. 2, Sec. 3… と体系的にに並んでいて、内容の多くは、「○○法の△△条を修正する」、「□□条に以下の文言を追加する」、「××条を削除する」という改正指示書(instruction)の形式になっている。
一方、米国にはBillとは別に、Actというものがある。Actは、Bill の指示を既存法体系に組み込んだ完成版の法令集で、例えば安全飲料水法SDWAについていえば、既存法令集U.S. Code の中のPublic Health Service ActのTitle XIV として、42 U.S.C. §300f〜§300j-27 に配置されている。その条文は次のように体系的に整理された構造を持っている。
・ 定義(§300f)
・ EPA 権限(§300g–§300g-3)
・ 規制基準(§300g-1)
・ 地下水保護(§300h)
・ 公共水道監督(§300j) -
Act段階では、Bill段階での Sec. 101, 102… といった番号は消えており、既存法令集の該当箇所に「挿入」され、条文番号は完全に変わっている
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2. Bill段階 → Act段階における具体的な差
① Bill の条文は「改正指示」中心
・ 「Public Health Service Act の §1401 に以下を追加する」
・ 「§1445 の報告義務を次のように修正する」
・ 「新しい助成プログラムを設けるために新設条項を追加する」など -
② Act(U.S. Code)では内容が再配置される
・ Bill の Sec. 101 が→ Act では 42 U.S.C. §300g-1に組み込まれる
・ Bill の Sec. 201 が→ Act では §300h(地下水保護) に組み込まれる
・ Bill の Sec. 301 が→ Act では §300j-12(インフラ支援) などに配置される -
③ Bill の構造は Act の体系と一致しない
・ Bill は「Sec. 1〜Sec. 10」のような直線構造
・ Act は「Title → Chapter → Section」の体系構造
・ 結果として、Bill の条文は複数の U.S. Code の条項に分散する
・ Bill の Sec. 番号は Act では完全に別の条文番号(42 U.S.C. §300f〜)に再配置される。 -
④ Bill の条文の一部は Act に残らない
・ 「○○条を削除せよ」などの指示部分は、Act では消える
・ Act には「改正後の完成形」だけが残る
米国の法令集
【法令集の作成手法】
日本の法令集は、基本的に、誰が作っても同じものになります。何故なら、旧法のどこをどう修正するかということを詳細に記述した改正法が審議の対象となっており、そのため、改正後の新法令は機械的に生成されることになるからです。誰がその作業をしても、同じ新法令ができあがる訳です。
これに対して米国では、審議の対象となっているのが、「私はこう考える」式の法案ですので、体系立った、秩序だった法案になっていないこともあり得ます。例えば、この条文は、本来の分野とは別の分野に掲載した方が理解しやすいようなこともあります。このような事情もあり、米国の法令集は、審議の対象となって成立した法令が、公式の法令集「United States Statutes at Large」として連邦議会から発行されています。
しかしそれとは別に、内容重視で、いくつかの分野に体系的に整理された法令集「United States Code」があります。成立した各法令を、その法令集に追加、削除する形で、読みやすく編集したもので、章立てや条文の番号も、新たに附番されることになります。
アメリカ合衆国-連邦法の調べ方(2023年8月7日 更新 国立国会図書館作成)より
法律が制定されると、法律ごとに小冊子「Slip Law」(スリップ・ロー)が刊行され、それを制定順にまとめた「United States Statutes at Large」(制定順法律集。以下、「Statutes at Large」と記載)が刊行されます。その後、議会制定法は条文単位に分解され、「United States Code」(合衆国法典)の中の1条文として再構築されます。
「U.S.C.」は、現行の「Public Law」を各条文単位に分解し、54の「Title」(編)の下、体系立てて主題ごとに分類し、ひとつの法典として再構築したものです。「U.S.C.」の編纂については、The Office of the Law Revision Counsel of the U.S. House of Representatives(下院法律改定委員会 略称:OLRC)が責任を負っています。
後者の法令集は、前者に比べれば、まだわかりやすいですが、それでも、古い法律が、曖昧に併存しているということになると、そういう、生きている古い法令も含めた、さらにわかりやすい総合的な法令集のニーズが出てきます。そこで、民間出版社刊行の、注釈付きの法令集が複数存在しています。West Publishing社の「United States Code Annotated」と、LexisNexis社の「United States Code Service」が有名です。