20250425更新
20250409公開開始
インディアナポリス(89万人)
-
インディアナ州中央部に位置する都市。同州の州都であり、州の政治・経済・交通・文化の中心地となっている。インディアナポリスはインディアナが州に昇格した後、1821年に州都となるべく建設された計画都市である。20世紀に入るとインディアナポリスは自動車産業で発展し、一時はデトロイトにも匹敵したが、現在では、生物工学・生命科学・ヘルスケアといった産業がインディアナポリスの地域経済を支えるようになってきている。
-
1970年にインディアナポリスにカウンティ庁を置くマリオン・カウンティと合併した結果、マリオン・カウンティ域のほとんどがインディアナポリスの市域となり、945.6平方キロメートルの広い市域を有している。
-
インディアナポリス市の上下水道サービスは、市の公益事業局のコントロールの下で、公益憲章信託法人Public Charitable Trustというユニークな形態の非営利法人によって提供されている。この法人は、Citizens社:Citizens Energy Groupで、80万人以上の市民と1000以上の事業所に対し、上下水道サービスの他、ガスや熱供給のサービスを提供している。
インディアナ州の位置図

インディアナ州のインディアナポリス市の位置図

インディアナポリス水道:Citizens社
-
Citizens社という名称は、インディアナポリス市公営事業局が設置する信託委託者理事会を通じて、市が公営事業活動をするための商号である。同局は1929年に州法に基づいて、同市他の地域にガス、上下水道サービスを提供する公益憲章信託法人(エナジジー信託法人)の権利承継者として設立された。局は、エナジジー信託資産とウォーター信託資産を所有する自治体ということになる。この2つの信託資産の区分は、それぞれの信託資産の性格と目的と義務を明確に定義したもので、それぞれが法人格を有している訳ではない。
-
市内部の政治的党派的な争いから守るため、州法は、信託受託者側に受託者理事会を設置し、信託資産が持続的に継続できるよう、信託を委託する側の委託者理事会のメンバーを、毎年、指名する権限を与えている。この2重理事会制は、信託受受託による信託委託者への監視メカニズムとなっている。さらに州法は、市議会や市長からこの2つの理事会への権限を遮断することにより、局を政治的統制から隔離することとしている。
-
ガス、熱供給、受託事業等はエナジジー信託資産の信託目的に従うこととなる。同じく、水道事業は、エナジジー信託資産とは別のウォーター信託資産の信託目的に従うこととなる。
-
下水道事業は、別の非営利会社であるCWAが所有されている。この会社は、Citizens社、インディアナポリス市、公共事業局理事会を通じて経営されている下水道事務組合等の関係自治体間で結ばれた、州法に基づく協定に基づき、課税権限等も含めて、関連する全ての権限を行使することとされている。下水道施設の運転は、市との協定に基づき、Citizens社が受託している。CWAは、上記2つの公益信託法人と全く同じように、下水道信託資産の信託目的に従って運営することとなる。
-
ガス・熱供給・上下水道のための債券発行については別の契約書が存在している。それぞれの契約において、それぞれの事業からの収益を得て、事業活動と債券の元利償還に充当することとされている。
インディアナポリス水道の主要施設位置図

【インディアナポリス水道の歴史】
-
インディアナポリス水道は、実質的に、IWC社:Indianapolis Water Companyによって始まった。厳密には、IWC社の前身であるWater Works Company of Indianapolis社が、1871年に、市内で水道事業を開始したのが最初であるが、この会社は、その後10年位で、経営が行き詰ってしまった。
-
前身の会社に破綻を受け、1881年4月、地域の実業家グループがIWC社を設立し、同社を買収した。IWC社は新しい水源を見つけ、1904年、White River浄水場を建設するなど、事業の拡張に努めた。
-
1912年、IWC社は、投資家Clarence H. Geistによって買収されることとなった。この投資家は、1920年代になると、全国の電気、ガス、水道事業を所有するようになった投資家である。
-
1958年の洪水被害を受け、市は、Eagle Creekに洪水調節と水道用のダムを建設し(1968年完成)、市の北東部地域にも給水することとなった。
-
2002年、市は、515億円でIWC社を買収し、名称をインディアナポリス水道に変更するとともに、世界的水会社Veoliaの子会社と、20年間の経営管理をまかせる契約を締結した。しかし、Veoliaとの契約は、給水水質の問題などトラブル続きになり、2011年、市は、Veoliaとの契約を29億円の支払いで終了させるとともに、インディアナポリス水道をCitizens Energy Groupに売却し、現在に至っている。
【Citizens Energy Groupの歴史】
-
1887年、インディアナポリス市が、市内の天然ガス田を利用してガス供給事業を始めた時に、事業者として、公益憲章信託法人Consumers Gas Trustが設立された。これは、Thomas Morrisなど市の当時の指導者3人が、一部の人による独占や、政治的有力者などからカス会社の資産を守るため、このような法人を設立したものである。
-
1906年、Citizens Gas社が、この信託法人の資産の過半数を買収した(名称も変更)。
-
2008年、インディアナポリス・コーク社の閉鎖などの社会情勢を踏まえて、Citizens Energy Groupという社名に変更された。その後、2011年に、市の上下水道事業を買収した。
【Citizens社の事業拡大の歴史】
-
2000年、Citizens社は、全米第2位の蒸気冷水供給サービスを提供する事務組合を、インディアナポリス電力照明会社から買収した。
-
2005年、Citizens社は、Westfield市に供給しているWestfieldガス社を買収した。
-
2007年、Citizens社は、インディアナポリス・コーク社のオーブン電源と関連施設の運転を停止した。
-
2011年8月、Citizens社と市は、市の上下水道施設の買収が完了した。
-
2014年、Citizens社は、Westfieldの上下水道施設を取得し、先に取得していたCEG Westfieldのガス部門とともに運転されている。
【Citizens社の現在の事業部門】
-
Citizens社は、次のような多くの事業に関わる「公益信託法人」として運営されている。
-
天然ガス
-
水道:8カウンティと周辺水道事業者への供給
-
下水道:Marionカウンティへのサービスと周辺下水道事業者からの下水処理の受託
-
エネルギー関連施設の運転受託事業
-
Citizens Westfield部門の経営:Westfield市域の11,000人へのガス、上下水道
-
【信託とは】
-
「信託」の制度の始まりは、中世のイギリスで利用されていた「ユースuse」であると一般的にいわれている。イギリスでは当時、自分の死後に教会に土地を寄進する慣習があったが、それを法律で禁止されたことに対抗するかたちで生まれたものが「ユース」だった。それは「信頼できる人に土地を譲渡→そこから得た収益を教会に寄進してもらう」というもので、自分または他の人の利益のために、信頼できる人にその財産を譲渡する制度だった。
-
ユースは、十字軍の遠征でも、参加した兵士たちの間で、国に残してきた家族のために利用されたといわれている。さらにユースは、時代の変遷を経て、近代的な信託制度へと発展した。また、人と人との信頼関係に基づくものであることから、信頼を意味する「トラスト(Trust)」という言葉で呼ばれるようになった。
-
イギリスで生まれた信託制度は、その後アメリカに渡り、はじめは遺言の執行や遺産の管理などを中心に利用された。さらに、19世紀のはじめになると、信託の引受けを会社組織で行うものが現われるようになった。その後、1861年に始まった南北戦争をきっかけとして、鉄道建設や鉱山開発など、インフラ関係の新しい事業がさかんになり、多額の資金が必要とされるようになった。そこで、これらの事業を行う鉄道会社や鉱山会社の発行する社債を引き受け、広く大衆に販売するかたちで資金を供給したのが信託会社であった。信託会社が金融機関としての役割も担うようになったのには、こうした背景があったのである。
インディアナポリス水道:概要
-
Citizens社は1887年に、インディアナポリス市とその市民のために、その前身であるガス使用者信託法人:Consumers Gas Trustとして創設されている。この法人は、現在、天然ガス、熱供給、上下水道などのサービスを、市内の90万人の住民や企業に、幅広く提供している。
-
Citizens社は水道サービスのために、水源として3つの貯水池、浄水場として4か所(White River・White River North・Fall Creek・T.W. Moses)を持っている。
-
Morse貯水池の水はWhite River浄水場とWhite River North浄水場で取水されている。Geist貯水池の水はFall Creek浄水場で、Eagle Creek貯水池の水はT.W. Moses浄水場で取水されている。
-
そのほか次の5か所に井戸水源をもっている。
-
Geist Station・Harding Station・South Wellfield・Harbour・Ford Road
-
インディアナポリス水道の主要施設位置図

White River浄水場
White River North浄水場
Morse貯水池
Citizen's貯水池
Fall Creek浄水場
Moses浄水場
インディアナポリス水道:Citizen社貯水池
【Geist貯水池とCitizen社貯水池の関係】
-
Citizen社貯水池は、水の少ないインディアナポリス水道にとってユニークな存在である。
-
Citizen社貯水池はGeist貯水池に隣接しており、11,000万m3の調整容量を持っている。雨期に、Geist貯水池から溢流する分を取水、貯留し、追加的に38万m3/日の給水能力を提供することを目的としている。
-
Citizen社貯水池の水は乾期にはGeist貯水池に戻され、下流のFall Creek浄水場やWhite River浄水場の取水に回される。
【歴史】
1913-1923:
1913年、市中心部の需要増に対応するため、貯水池容量の増強が課題となり、Fall Creekに新たな貯水池を建設することが提案された。
1923-1943:
Geist貯水池のため、1920年代から30年代にかけて調査、設計、41年から43年にかけて工事が行われた。
1950年代-1960年代:
IMI社が、現在のGeist貯水池の隣接池で、石灰石などの鉱山開発が始まった。
1970年代:
インディアナポリス市水道会社が、IMI社の協力を得て、Geist貯水池の北側に貯水容量を増強することとなった。
1980年代:
IMI社がかつて運転していた排水処理施設の跡地に、ポンプ施設を新たに設置する計画に関し詳細な検討が行われた。
2012年-2019年:
その後、CEG社がIMI社からこの跡地施設を買い取り、新たな貯水池の容量をさらに増強するよう計画を変更した。
2019年-現在:
2020年に、Citizen社貯水池が竣工
Citizen社貯水池の工事の進捗状況

Geist貯水池とCitizen社貯水池の位置関係

Citizen社貯水池の現状

インディアナポリス下水道:トンネル合流式下水道(DigIndy)
-
市内の地下75mの岩盤内に建設された、総延長45km、口径5500 mmの、トンネル合流式下水道のネットワークである。
-
トンネル関連施設と2か所の下水処理場と合わせて、総額20億US$(3,000億円)の巨大事業で、その目的は、合流式下水道の運河へのオーバーフローを低減させ、連邦政府EPAの排出基準に適合させるためである。
-
2024年現在、6つのトンネル下水管のうち4つが運転中で、CEGは2,000万m3の下水流入を防いだ。残りの2つのトンネル下水管は2025年に稼働予定である。
-
6つのトンネル下水管がすべて完成すれば、インディアナポリス市の合流式下水道から周囲の運河やクリークにオーバーフローするはずの下水の95%がCEGの施設で処理されることとなる。
DigIndy系統図
Fall Creek Tunnel

Pleasant Run Tunnel

