20250425更新
20250409公開開始
カウンティ
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第1階層にあたる自治体は、概ね、カウンティと呼ばれている。「概ね」というのは、自治体制度が各州で微妙に異なっているからである。カウンティ類似だが別の呼称を使っていたり、同じカウンティと呼ばれているが、自治体の機能はなく、単なる地域区分の名称であったりする。
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カウンティは、基本的には、庁舎、議会、警察などを備えた実体的な自治体組織である。しかし例外も多い。コネティカット州やロードアイランド州では、自治権を持たない地図上の区分にすぎず、カウンティとは別の名称の組織が自治体機能を担っている。一方、ハワイ州のカウンティには下位の行政単位がなく、カウンティがかなりの権限をもっている。カウンティを置いていない州はアラスカ州とルイジアナ州で、カウンティという呼称に代えて、アラスカではバラborough、ルイジアナではパリッシュparishと呼ばれている。
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カウンティの行政区域については、州内の全ての地域が必ずどこかのカウンティに属している訳ではない。全米50州の中で、州全体がカウンティで完全に分割されているのは44州である。カウンティに属していない区域は、連邦政府によって各種統計用、公表用の概念としてカウンティ同等county-equivalentと定義されている。この結果、米国の全ての地域はいずれかのcountyかcounty-equivalentの区域に属するようになっている。全米には3077のカウンティ、237のカウンティ同等区域があり、合計3244のカウンティ及びカウンティ同等区域がある。
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カウンティに属さず、直接、州に属する独立市というものも41ある。独立市は単独で county-equivalentとなる。メリーランド州ボルチモア市、ネバダ州カーソンシティ、ミズーリ州セントルイスの3市と、バージニア州の38市がそうである。バージニア州では州法により、全ての市が独立市となっている。ワシントンDCは連邦政府直轄の特別区であり、どの州にも属しておらず、1つのカウンティ同等区域である。
アメリカ合衆国のカウンティ境(細線)

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日本では上下水道事業の主たる事業主体は市町村である。市町村は、中央政府に対して自治体、米国ではcentral governmentに対してlocal governmentといわれる存在であるが、先ずは、中央政府と自治体の関係を、簡単に日米比較してみると下図のようなイメージになる。
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先ず、日本人にとってなかなか理解しづらいのが、米国の中央政府が、連邦政府と州政府の2階層制になっていることである。多くの日本人は、ワシントンDCにある連邦政府が中央政府だと考えるが、それは米国国内の行政を理解する上では、ほとんど誤りと言っていい。連邦政府の成立ちの歴史を見ても、いくつかの州政府が先に存在していて、その州政府の合意によって、いわば、機能限定版の州政府連合体として連邦政府が作られているのである。
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したがって連邦政府の権限は、基本的には、外交、防衛等と、複数の州にまたがる業務とされている。例えば水道行政の分野でいえば、日本でも有名な、連邦政府のUSEPAが設定した飲料水水質基準があるが、これは水質基準そのものではなく、州政府が設定する水質基準のためのガイドラインという位置づけである。違反した場合の水道事業者に対する罰則、強制措置は、州政府の権限に基づいて執行されることとなる。
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各種の行政制度が州毎にあまりに違うと困るため、重要なことに関しては、連邦政府がそれに応じたガイドラインを発出し、標準化を図っているものの、最終的な法規制は州法に基づいて実施される。このことから、各種の行政制度が州によって微妙に異なることは避けられない状況にある。
【自治体の構造-日米比較】
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米国の中央政府が連邦政府と州政府の2階層制になっていることは既に説明したが、自治体制度も2階層制である。日本の自治体制度も、都道府県と市町村の2階層制であり、その点では日本人にも理解しやすい。米国では、州によって微妙に異なるが、基本的には、第1階層目がカウンティcountyで、第2階層目の基礎自治体は都市municipalityである。
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日米で大きく違うのは、米国では、呼称、権限、責任、運営手法、いろいろなことが、州によって、あるいは、同一の州の中でも微妙に異なっており、極めて多様であることである。それは、米国におけるコミュニティ、自治体、行政の歴史に起因しているところが大きい。
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この州毎に微妙に異なる自治体に関して、連邦政府の立場で全国的な統計を取る場合、統一的な定義に基づいて、それぞれの自治体組織を分類、定義することが必要になる。その定義を示しているのが、5年毎に実施される全米自治体調査United States Census of Governmentsを実施している連邦政府国勢調査局United States Census Bureauである。
【全米自治体調査United States Census of Governments】
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連邦国勢調査局は、人口については、日本の国勢調査のような調査を10年毎に実施しているが、自治体についても、その組織のあり方、公職の決め方、公的資金の受取資格などに関して、5年毎に全米調査を実施している。この全米自治体調査においては、各州の自治体を次の4類型に区分している。
1カウンティ County Governments
2 町村Town or Township Governments
3 都市Municipal Governments
4 特定目的自治体Special-Purpose Local Governments
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自治体制度における第1階層、上位階層に当たるものが、第1類型のカウンティである(ルイジアナ州やアラスカ州では別の名称で呼ばれている)。第2類型以下は、第2階層、下位階層に当たるもので、city、town、township、civil township、charter township、borough、villageなどといろいろな名称で呼ばれている。第3の類型は、日本の自治体における市、市役所とほぼ同じイメージである。都市的イメージ、法人格を持ったしっかりとした自治体というイメージである。
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第2類型のTown/Townshipには、法人化されているか、されていないかという区分があり、法人化されていれば、Municipalityと呼ばれることもある。第4の類型は、日本でいうところの事務組合、企業団などのイメージである。米国の水道事業者もこの類型が多いが、道路管理、警察組織、消防なども、複数の自治体にまたがる場合、この類型に入ることが多い。
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なお、幼稚園から高校までの公教育を提供するschool districtというものがあるが、これも第4の類型に入れて考えてもいいと思われるが、全米自治体調査においては、調査対象とはなっていない。自治体調査ではなく、別に、学校を対象とした全米調査が実施されており、教育委員会的な組織の把握は、そちらで行われている。
市町村
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米国の第2階層自治体は、cities、towns、townships、charter townships、villages、boroughsなどいろいろな呼称の組織が存在しており、州毎に、また、歴史的理由で、日本人から見ると、極めて雑多な類型となっている。日本の自治体は、地方自治法に基づいて設立されており、当然に法人格を持っているが、米国では、自治体として法人格はないが、実質的に、自治体的な活動をしている、いわば、町内会的な組織もある。そこで法人格を取得させ、州法の規定に基づく組織として、ある程度、均一な自治体類型に当てはめようというようなことが各州で行われている。
【Municipal governments】
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州法に基づいて設立された自治体で、人口密集地域を中心に、一般的な公共サービスを提供する組織である。日本でいう市町村に当たる自治体である。Municipalityは、自治体としての法人格を有しており、全米自治体調査における非法人化区域に対応する概念である。
Municipalityの規模は、人口1人の村(Monowi村・Nebraska)から人口850万人のニューヨーク市まである。自治能力、自治権限の程度は極めて異なるが、全米には30,000のMunicipalityがある。
【town/township governments】
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Townshipは、カウンティの下位に位置する、米国で広く使われている自治体の名称である。New England, New York, Wisconsinで使われているtownはcivil townshipと同じ意味で使われている。Minnesotaでは、town/townshipは同じ意味で使われている。Townshipの権限と自治の程度は州により異なる。
Townshipは、一般的に、数人から構成される行政委員会的な組織によって運営されている。日本にはなじみのない存在なのでイメージしにくいが、選挙で選ばれた数人の議員が、執行部を構成する(場合によっては首長を選出する)。その数人の議員は、市政担当官clerk、市政受託者trustee、市長mayorなどと呼ばれている。Townshipには専門職員として、紛争仲裁、道路管理者、法務顧問、警察、測量などの担当管が配置されている。
【Special districts】
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Special districtsは、special service districts、special district governments、limited purpose entitiesなどとも呼ばれるが、county, municipal, townshipなどの一般自治体とは別に存在する、独立した、特定目的の自治体である。1つまたは関連する複数の目的を達成するために形成されており、2017年の自治体調査では51,296のSpecial districtsが存在している。処理する事務は、次のようなものである。
・空港、港湾、高速道路、公共交通、公共駐車場、消防、公共図書館、公園、墓地、病院、灌漑、環境保全、下水道、下水処理、ごみ処理、光回線サービス、運動場、水道、電力サービス、天然ガス供給など
【Municipality・Townなどの例外事例】
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Municipalityには、カウンティと統合されている事例もある。一方、ヴァージニア州では統合されることはなく、市は完全にカウンティから独立しているか、カウンティの一部であるかのどちらかである。ニューイングランド地方では、州政府の直下の自治体はcountyではなくcivil townshipやtownとなっており、場合によっては、カウンティが省略されることもある。多くの州の中山間部では、カウンティの下にMunicipalityそのものがない。
自治体の法人化Municipal corporation
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自治体の法人化プロセスとはどのようなものか、ワシントン州の人口2.5万人の小さな町の法人化プロセスの事例を紹介する。この事例は、州政府が州法により、自治体の法人格取得を法令で奨励している中で法人化プロセスが実施されている。法人化の基本的プロセスは、州法に基づき、①住民グループによる要請-②行政境界審査委員会による行政境界の審査-③住民投票-④最初の市議会議員選挙というステップを踏むことになる。以下、実施された検討調査報告書からその実際のプロセスを紹介する。
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(1) Fairwoodの概要
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Fairwoodは人口25,000人の町である。ワシントン州キング・カウンティの都市部内のRenton市の東に位置していて、ほぼ住居地域である。
(2) 法人化プロセスの実施状況
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州法の1990年都市開発管理法では、都市部の自治体として法人化されていない区域を、積極的に法人化するように推奨している。手法としては、独立自治体の創設でもいいし、隣接自治体による統合でもいい
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Fairwoodが地理的に所属しているKingカウンティは「Kingカウンティ都市計画指針」を策定し、2012年までに、前記2つの手法のいずれかで、法人化されていない地域の法人化を推進している。
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1999年、Fairwoodの住民グループが自治体法人化検討調査の実施をカウンティに要望した。カウンティは2004年度予算で、この地区を法人化すべき優先地区として採択した。2005年9月、住民グループから行政境界審査委員会宛に、法人化のプロセスを開始するよう要請が出された。2006年9月、カウンティは法人化調査報告書を公表し、住民投票に付すことが決定された。
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2006年9月、住民投票が行われたが、結果は、差はわずかだったが、現状のまま法人化しないというものだった。このため、2007年10月、今度は別の住民グループが、行政境界審査委員会に対して、再度の住民投票の実施を主張して、訴訟を提起した。ここで紹介している調査報告書は、再度の法人化要望に対し、新たなコンサルタントを雇用し、既存調査を見直した結果の報告書である。
(3) 見直し報告書の目的
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Fairwoodが市として法人化された場合に、その税収は、現状の住民サービスをよりよくするためのコストを賄えるか、という質問に答えることであるとされている。
(4) 見直し結果
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【他の既存自治体等から新Fairwoodに新たに提供されるべきサービス】
・ 公衆衛生-Kingカウンティ
・ 学校-Renton教育委員会・Kent教育委員会
・ 州道-ワシントン州
・ 交通-Sound Transit・Kingカウンティメトロ -
【新Fairwood市から提供されるべきサービス(直営または委託)】
・ 土地利用計画とその規制
・ 法の執行(警察・刑務所・裁判・動物保護)
・ 市道、街路
・ 雨水浸水対策
・ 行政一般(市議会・市長・市職員・弁護士・財務・人事) -
【他の既存自治体等から新Fairwoodにこれまで通り提供されるべきサービス】
・ 消防・救急サービス-消防事務組合40・同37
・ 図書館サービス-Kingカウンティ図書館システム
・ 近隣公園・リクリエーション施設-Kingカウンティ
・ ごみ収集-Kent-Meridian Disposal・SeaTac Disposal
・ ごみ運搬・処理-Kingカウンティ
・ 上下水道-Cedar川上下水道事務組合・Soosクリーク上下水道事務組合
新Fairwoodの行政区域(案)
