20250425更新
20250409公開開始
中央政府と自治体制度
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日本では上下水道事業の主たる事業主体は市町村である。市町村は、中央政府に対して自治体、米国ではcentral governmentに対してlocal governmentといわれる存在であるが、先ずは、中央政府と自治体の関係を、簡単に日米比較してみると下図のようなイメージになる。

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日本では上下水道事業の主たる事業主体は市町村である。市町村は、中央政府に対して自治体、米国ではcentral governmentに対してlocal governmentといわれる存在であるが、先ずは、中央政府と自治体の関係を、簡単に日米比較してみると下図のようなイメージになる。
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先ず、日本人にとってなかなか理解しづらいのが、米国の中央政府が、連邦政府と州政府の2階層制になっていることである。多くの日本人は、ワシントンDCにある連邦政府が中央政府だと考えるが、それは米国国内の行政を理解する上では、ほとんど誤りと言っていい。連邦政府の成立ちの歴史を見ても、いくつかの州政府が先に存在していて、その州政府の合意によって、いわば、機能限定版の州政府連合体として連邦政府が作られているのである。
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したがって連邦政府の権限は、基本的には、外交、防衛等と、複数の州にまたがる業務とされている。例えば水道行政の分野でいえば、日本でも有名な、連邦政府のUSEPAが設定した飲料水水質基準があるが、これは水質基準そのものではなく、州政府が設定する水質基準のためのガイドラインという位置づけである。違反した場合の水道事業者に対する罰則、強制措置は、州政府の権限に基づいて執行されることとなる。
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各種の行政制度が州毎にあまりに違うと困るため、重要なことに関しては、連邦政府がそれに応じたガイドラインを発出し、標準化を図っているものの、最終的な法規制は州法に基づいて実施される。このことから、各種の行政制度が州によって微妙に異なることは避けられない状況にある。
【自治体の構造-日米比較】
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米国の中央政府が連邦政府と州政府の2階層制になっていることは既に説明したが、自治体制度も2階層制である。日本の自治体制度も、都道府県と市町村の2階層制であり、その点では日本人にも理解しやすい。米国では、州によって微妙に異なるが、基本的には、第1階層目がカウンティcountyで、第2階層目の基礎自治体は都市municipalityである。
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日米で大きく違うのは、米国では、呼称、権限、責任、運営手法、いろいろなことが、州によって、あるいは、同一の州の中でも微妙に異なっており、極めて多様であることである。それは、米国におけるコミュニティ、自治体、行政の歴史に起因しているところが大きい。
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この州毎に微妙に異なる自治体に関して、連邦政府の立場で全国的な統計を取る場合、統一的な定義に基づいて、それぞれの自治体組織を分類、定義することが必要になる。その定義を示しているのが、5年毎に実施される全米自治体調査United States Census of Governmentsを実施している連邦政府国勢調査局United States Census Bureauである。
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【全米自治体調査United States Census of Governments】
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連邦国勢調査局は、人口については、日本の国勢調査のような調査を10年毎に実施しているが、自治体についても、その組織のあり方、公職の決め方、公的資金の受取資格などに関して、5年毎に全米調査を実施している。この全米自治体調査においては、各州の自治体を次の4類型に区分している。
1カウンティ County Governments
2 町村Town or Township Governments
3 都市Municipal Governments
4 特定目的自治体Special-Purpose Local Governments
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自治体制度における第1階層、上位階層に当たるものが、第1類型のカウンティである(ルイジアナ州やアラスカ州では別の名称で呼ばれている)。第2類型以下は、第2階層、下位階層に当たるもので、city、town、township、civil township、charter township、borough、villageなどといろいろな名称で呼ばれている。第3の類型は、日本の自治体における市、市役所とほぼ同じイメージである。都市的イメージ、法人格を持ったしっかりとした自治体というイメージである。
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第2類型のTown/Townshipには、法人化されているか、されていないかという区分があり、法人化されていれば、Municipalityと呼ばれることもある。第4の類型は、日本でいうところの事務組合、企業団などのイメージである。米国の水道事業者もこの類型が多いが、道路管理、警察組織、消防なども、複数の自治体にまたがる場合、この類型に入ることが多い。
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なお、幼稚園から高校までの公教育を提供するschool districtというものがあるが、これも第4の類型に入れて考えてもいいと思われるが、全米自治体調査においては、調査対象とはなっていない。自治体調査ではなく、別に、学校を対象とした全米調査が実施されており、教育委員会的な組織の把握は、そちらで行われている。
米国の法制度-英米法の世界
筆者は、米国の法制度について勉強する中で、自分が役人生活の中での経験からは、とても理解できないというようなことに頻繁に遭遇しました。それを何とか理解しようとした中で到達した1つの結論が、日本の法体系は大陸法の体系であるのに対し、米国の法体系は英米法の体系であるということでした。筆者は法律の素人ですので、法律の専門家から見れば間違っているところも多々あると思いますが、1人の上下水道の専門家の実務的な経験に基づく理解であるという前提で、読んでいただければ幸いです。
法律の成立:
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米国では、「大統領が署名して成立した」というような表現が頻繁に出てきます。日本では国会が衆参両院で可決すれば、実質的に、法律として成立します。厳密には、その後、天皇による「公布」という国事行為が行われて、正式に成立するということになるのでしょうか。筆者は、大統領の「署名」というのは、天皇の「公布」みたいなもので、形式的な行為と思い込んでいました。
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しかし、そうではありません。議会が議決した法案は、まだ、道半ばであり、大統領は、その成立を拒否することができます(拒否権の行使)。大統領が拒否権を行使した場合は、議会側は、2/3の多数による再議決で、拒否権を覆すことで、法律が成立するという仕組みになっています。大統領の「署名」はこのように法律成立の要件であり、決して形式的な行為ではありません。
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日本では、国会で法律が可決されたといえば、間違いなく法律が成立したわけですが、米国では、ある法案が議会で可決されたという記事と、その法案に大統領が署名したという記事には、大きな違いがあります。
法律の改正:
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日本の法律を改正する場合、全部改正という方法と、一部改正という方法があります。前者の場合は、元の法律を廃止して全面的に新しい法律を作るのですが、後者では、元の法律の条文に対して、「〇条の△△のここをこう変える」というような条文の法律を作ります。米国の場合、元の法律に対して「その修正amendment」という形で法案を作りますが、元の法律はそのまま放置する場合が多いようです。放置せず、明示的に、「ここはこう修正する」という場合もあるようですが、新しい法律が優先だという考え方で、実質的に、追加、削除、改正が行われている感じがします。
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アメリカの現行憲法は、1787年に成立した当初の憲法に対して、何回かの修正がおこなわれています。ただしその修正条項は、元の条文を直接変更・改廃するのではなく、従来の条文は残したまま、修正内容を修正条項として、それまでの憲法典の末尾に付け足していく方法がとられています。憲法修正条項は27条あり、修正条項は、順次「第1修正 (Amendment I)」「第2修正 (Amendment II)」と番号が付されていきます。
米国の法令の整理
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日本の法体系は大陸法体系であるといわれます。大陸法では全ての法令が階層制になっていて、極めてわかりやすい体系となっています。一方英米法は、階層的になっておらず、全ての法令は、基本的に、横並びという位置づけです。このことは、これまで作られた法律は、全て、まだ有効であるということを意味します。せいぜい、同じ事柄に関して異なる規定をしている2つの法令の場合、成立年次の新しい法令が優先するという構造はありますが、新しい法令がなければ、100年前の法律でも200年前の法律でも、今日でも、それは有効な法律であるということです。
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英米法でもう1つ、日本人にわかりにくいのは、英米法では、有効か無効かという判断が、法律全体ではなく条文毎に行われるということです。言い方をかえれば、1つ1つの条文が独立して存在していることになり、このことから、法令集に掲載する場合、法令集の整理方針、編集方針に沿って、いわば、勝手に並べ替えられ、成立時の条文番号とは異なる、新しい番号が附番された法令集が出来上がることになります。
米国の法令集
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こういうことになると、米国の法令集の編集はかなり難しい存在になります。新しい法令が制定されていて、実質的に、無効になっている法令はどれで、新しい法令が制定されていなくて、まだ有効な法令はどれかという判断や、法令集の目次というか、編集方針に沿って並べ替えたりすることも必要です。日本の「現行法令集」は、誰が作っても厳密に同じものができますが、米国の「法令集」では、似て非なる複数の「法令集」が存在し得ます。
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現行法を掲載する資料として、最も、使われているものが、USC:United States Code(連邦印刷局USGPO)で、1926年以降を所蔵する公式の現行総合法律集です。6年ごとに全面的に改版され、改版までは、累積版のSupplment(年刊)が刊行されます。
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次に有名なものが、West Pub 社のUSCA:United States Code Annotated(West Pub. Co.)で、1927年以降を所蔵する、民間版注釈付き現行総合法律集です。各本体は、「Pocket Part」(毎年累積した内容で刊行されるパンフレット状の付録、本体の末尾に繰り込む)によって、内容がアップデートされます。本体の改版は、編ごとに随時行われます。
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この他にも、民間版の現行総合法律集としてLexisNexis社のUSCS:United States Code Serviceがあります。
*国立国会図書館の所蔵資料の検索システム:「国立国会図書館サーチ」の記事を参照しました。